明治美術学会40周年 国際シンポジウム

「明治から/明治へ ―書き直し近代日本美術」

2024年11月23日(土) TODAホール(京橋)
2024年11月24日(日) 早稲田大学小野記念講堂

主催:明治美術学会
特別助成:公益財団法人  石橋財団

開催趣旨
40年前に誕生した明治美術学会(当初は明治美術研究学会)は、その名のとおり、明治への関心から出発しました。日本の近代史も近代美術史も明治から語られることが多く、そのことはあまり疑われていませんでした。日本という国家の歩みと美術が一致しているように見えたのです。いや、そのような観点から、美術を語ってきたのでした。しかし、大学の研究者ばかりでなく、美術館学芸員や修復家が数多く参加した明治美術学会は、作品のイメージよりも実体(あるいは物体)としての美術に目を向け、作品の周辺に存在する膨大な資料を丹念に掘り起こし、歴史の細部に向けた緻密な検証を積み重ねてきました。学会誌『近代画説』にそれは明らかです。結果として、近代日本美術史を広げ、ひらき、揺さぶることにつながったと考えます。創立から40年が過ぎた現時点で、私たちが到達した現地点から再び明治へ目をむけ、近代日本美術史を書き直してみます。2日間にわたってシンポジウムを開催し、私たちの学会が何を明らかにしてきたのか、何を見落としてきたのか、今なお見えていないものは何かを問い、その一方で、これからの研究の可能性と方向性を探ります。

1⽇⽬プログラム

「近代日本美術研究はどう変わったか」

日時:2024年11月23日(土) 13:00~17:30
会場:TODAホール(定員300名)
東京都中央区京橋1-7-1 TODA BUILDING 4階
◎事前予約制(申込方法は開催が近づきましたら当ウェブサイトでお知らせします)

明治美術学会が設立された1984年当時、近代日本美術は学術的な研究対象としてまだ確立されていませんでした。その後、1988年には国際シンポジウム「日本近代美術と西洋」を開催しますが、そこではタイトルが示すように、近代日本美術を西洋との影響関係から考えていく視点が中心でした。しかしながら1990年代以降、近代日本美術史研究は多様な展開を示してきたといえるでしょう。西洋との影響関係だけでなくアジア諸国との関係にも目が向けられるようになり、また制度論的な視点からの研究や、同時代の他の表現分野との関係や社会との関係に目を向けた研究など、多角的な検証がなされてきました。そして海外の研究者たちによる成果の数々も見逃せません。シンポジウムの1日目では、こうしたこれまでの研究成果を振り返るとともに、いま、明治を起点とする近代日本美術について研究することの意義について考えていきたいと思います。

司会:大谷省吾(東京国立近代美術館副館長)

13:00~13:10 挨拶 高階秀爾(大原芸術研究所所長、東京大学名誉教授)
13:10~13:30 開催趣旨 木下直之(明治美術学会会長、静岡県立美術館館長)
13:30~14:15 基調講演 渡辺俊夫(セインズベリー日本藝術研究所教授)
14:15~14:45 講演 ジェニファー・ワイゼンフェルド(デューク大学教授)
14:45~15:15 講演 森村泰昌(美術家)
15:15~15:30 休憩
15:30~15:50 講演 児島薫(実践女子大学教授)
15:50~16:10 講演 丹尾安典(早稲田大学名誉教授)
16:10~16:20 休憩
16:20~17:30 討議 上記講師

 

2日目プログラム

次世代研究者フォーラム「視覚文化研究をひらく−近代・日本・美術を越えて」

日時:2024年11月24日(日) 10:00~18:00
会場:早稲田大学(早稲田キャンパス)小野記念講堂(定員200名)
東京都新宿区戸塚町1-103-18
◎事前予約制(申込方法は開催が近づきましたら当ウェブサイトでお知らせします)

創設以来の会員による、学会が紡いできた研究成果をめぐる初日の議論に対し、2日目は中堅・若手研究者が、対象とする地域や時代、社会的な課題を伴う視覚文化へのアプローチといった観点から、発表と討議を行います。これまでの研究対象や枠組みの背景となる考え方を、多様な地域や立場の発表者が相対化していくことを目指します。さらに、次世代の研究者がコメンテーターとして討議に参加したり、ポスター発表を行うことで、これからの新たな研究対象や方法の萌芽が学会員で共有される場となるでしょう。近代日本美術が、これからの視覚文化研究にとり豊かな培地となる可能性がひらかれる、そのような自由な議論の機会にしたいと思います。

総合司会:関直子 (早稲田大学 文学学術院 教授)

セッションA:午前 10:00~12:00
12:00~13:30 昼休み(ポスター発表)
セッションB:午後① 13:30~15:30
15:30~16:00休憩(ポスター発表)
セッションC:午後② 16:00~18:00
構成:発表①②③:各20分×3人+総合討議 45分

セッションA:『時代』
日本美術史のなかの「近代」を積極的に研究しようとする私たちは、その時代をどのようにとらえ、発信してきたのか。そしてこの先、どのように発信しようとするのか。前近代との区分はある程度明確だろうが、ではいつまでが近代で、現代との違いはなにか。この難解な問いに対して、本セッションでは美術館博物館の展示を軸として迫っていきたい。展示とは時代や地域を切り口に構成されている場合が多く、近代/日本の展示手法を国内外の事例を報告してもらおう。日本美術史の成立とその叙述の発展も、近代そして現代という時間のなかにあり、また対外的な関係性の中にあった。そのような時間軸と政治経済などのパワーバランスのなかで生まれた歴史観をもって、様々な視覚造形を展示してきた。研究以上に一般社会への還元として重視されるその活動の具体相を報告しあうことで、研究動向の特徴も浮び上がるだろう。以上を経て、いまこれからもなお、「近代」を研究する意義を現認する機会としたい。

チェア 角田拓朗(神奈川県立歴史博物館主任学芸員)
発表① 古田亮(東京藝術大学大学美術館教授)
発表② チェルシー・フォックスウェル(シカゴ大学准教授)
発表③ 堀川理沙(シンガポール国立美術館ディレクター)

セッションB:『地域』
近代日本は、琉球や台湾・朝鮮半島を併合し、明治以降には南洋諸島や満州に至る広大な地域をその影響下に置いた。日本の地理的な膨張に伴い、美術もまた各地との関わりを持つようになるが、近代日本美術史の語りはそうした地域の文化や表現を包括することなく一定の純粋性を志向してきた。近年、旧植民地における美術が研究の俎上に乗るようになり、それぞれの地域における展覧会や美術家の交流にも関心が向けられるようになっているが、近代日本美術における「日本」という概念はまだ強固な枠組みを保っているように思える。また、国内においては美術の中心軸が東京や京都に置かれ、地方における美術活動は重要視されてきたとは言い難い。本セッションでは、近代日本美術の枠組みを再考することから議論を進め、「内地/外地」・「中央/地方」といった「場」を通じて見えてくる近代日本美術の相貌に焦点を当てる。さらに世界各地における近代日本美術研究の広がりによって「日本」そのものを相対化した視座が獲得できるか相互に議論を深めて行きたい。

チェア 奥間政作(早稲田大学會津八一記念博物館主任研究員)
発表① 花井久穂(東京国立近代美術館主任研究員)
発表② 村田隆志(大阪国際大学国際教養学部教授)
発表③ マグダレナ・コウオジェイ(東洋英和女学院大学国際社会学部講師)

セッションC:『方法論と社会的課題』
美術史の語りと方法論は時代とともに変化し更新されてきたが、近年そのアプローチは社会的課題と切り離せないものとなっている。特に個人の生に関すること、ジェンダー、セクシュアリティ、アビリティは尊厳にかかわる重大な問題であるにもかかわらず抑圧の対象となり、タブー視される傾向にあった。相互に関係しあうこれらの課題はセッションA、Bで議論する民族、国家、権力、歴史などの命題と複雑に絡み合いながら、昨今ではインターセクショナリティ(交差性)という統合された概念として検討されはじめている。明治美術学会は、美術の枠組みにとどまらず広く視覚文化全般を扱う研究を受け入れてきたが、大学における研究者、美術館・博物館の学芸員に加え、これからは制作者であるアーティストとの対話も含め、表現の自由について考えることがより一層必要となってくるであろう。以上をふまえ、本セッションでは近代日本が不可視化してきた差別の問題に向き合う、開かれた議論の場を設定する。

チェア 林みちこ(筑波大学芸術系准教授)
発表① 吉良智子(日本女子大学学術研究員)
発表② 吉國元(国立ハンセン病資料館学芸員)
発表③ 小田原のどか(彫刻家・評論家)